ようやく。見つけたような気がした。
自分の戦う理由を。
父様・・・・・・・・。
貴方は何か理由あっての戦いを・・・・したことがありますか?
はジョウイの右腕として、ハイランドのためではなく、
彼のためだけにジョウイの敵となるものと戦っていく事となった。
それが都市同盟であろうと、ルカ様であろうと。
や・・・・フリック達であろうと・・・・・・。
「どうしたシード。」
クルガンは必要な書類をシードに渡すため、今は彼の部屋となっているそこへと訪れていた。
やジョウイと同様、一つの屋敷を借りてそこに寝泊りしている。
「ああ。ルカ様からの布告があってよ・・・、それでラウドがやけに張り切って出て行ったんだ。」
「布告・・・?」
クルガンにも大体の予想は出来ていた。
しかしシードの表情がイラつきを見せていることから、あえてその内容を彼の口から言わせることとした。
「行方知らずのテレーズを連れてきたやつには2万ポッチの賞金と、
ハイランドへの市民権を与えるんだとよ。」
「・・・なるほどな。それでは市長代行のテレーズが捕らえられるのも時間の問題だな。」
「ったく・・・気にいらねぇ。金で自分の街の市長を売るやつらがいるとは思えないが、
今のグリンヒル市民にとっちゃ打って付けのご褒美だ。食いつく奴らは山ほどいるだろうな。」
「・・・・。」
シードはまるで八つ当たりのように勢いよくソファへと座った。
その衝撃でクッションから見えない程度の埃が舞い上がり、日差しを浴びて更に散らばりが目立った事に
更にシードはイラついた。
そんなシードに、クルガンは書類をテーブルに置きながらいつもの冷静な口調で話しかけた。
「シード、お前がイラついている原因はそれだけか?」
「・・・・何が言いたい。」
「お前はもうがグリンヒルにいる事を知っているんだろう?」
「・・・・・・。」
クルガンのするどい質問に、シードはまるで問い詰められた子どものように押し黙った。
「ミューズを攻めた日、一度お前と行動を別にした時間があったな。
合流した後の様子は明らかにおかしかった。
前から聞こうと思っていたんだがな・・・・・。一体何があった。」
「・・・・・・・・。」
シードはクルガンから視線を外し、誤魔化す様に目の前の書類を手に取った。
「俺は先日、と話をした。」
「―――お前っ・・・!なんでそれを黙っていた!?」
「お前はジョウイ様とハイランドに戻っている時期だったしな。」
「そんな事関係ねぇ!何を・・何を話したんだ・・・!?」
「それは、さっきの俺からの質問に答えてからにしてもらおうか。」
シードはクルガンの変わることのない表情に嫌な自信を感じた。
眉を潜め、一間置いた後シードは無造作に書類をテーブルに投げ捨てた。
「ミューズを攻めてる最中、後ろから攻めてた俺は・・・・そこでジョウイ様とが話しているのを見たんだよ。」
クルガンはシードの話を促すかのように、彼の前に腰をかけた。
「そこで俺はこれからがジョウイ様の味方になってついていくという事を知ったんだ。」
「がジョウイ様の下へ来るという事をその時から知っていたのか・・・。」
「ああ。俺はいずれはハイランドにが戻ってくるという嬉しさと・・・・、
それでも俺の元に戻ってくるわけじゃない悔しさで、情けねぇけど・・・・・・混乱した。」
「しかし、はジョウイ様を男して見ているわけでは―――」
「分かってるさそんな事。けれど、ジョウイ様はどうか分からない・・・・そしてこれからは分からない。
・・・・俺は、完全に俺だけのためにハイランドへ戻ってくるを期待していたんだ。」
「・・・・・。」
「俺らしくねぇのは分かってるさ。ハイランドに戻ってくればこっちのもん・・・相手がどう考えていようが、
ジョウイ様が相手だろうが俺のものにする。そう考えてると思ったか・・・?」
口を開くことも、頷きもしないクルガンに、シードはハッと苦笑を溢して続けた。
「怖いんだよ・・・・俺は。
全力で手に入れようとすれば、あいつを傷つける事は目に見えてる。
そうなったとき、またハイランドから離れていくんじゃないかってな・・・・・。」
どこか穏やかな沈黙が流れる。
何も言わないクルガンに、シードは救われながらもどこか何かを言ってほしいと感じた。
「シード。」
「うるせぇな。・・・・もう少しゆっくり考えさせろよ。」
「窓の外を見ろ。」
「・・あ?」
突然の話の展開に、シードは怪訝そうな表情はしたものの、
クルガンの言った先へと視線を移した。
窓の外は街の広場だ。
何やら多くの市民が集まっており、それらの視線の先にはラウドと王国兵が並んでいた。
同色の王国兵たちの中に・・・・違う空気を感じさせる人が二人・・・・・・・。
「・・・!」
その姿はハイランドの軍服らしきものを装い、ジョウイの後ろに佇むの姿だった。
「これを着て下さい。」
自室に訪れたジョウイが持っていたものは、ハイランドを象徴しているかのような白を基調とした、
静かな色の軍服だった。
「これ・・・・。」
「僕が軍団長に就任した後、すぐに作らせたものです。
・・・貴女がもし僕の元へ来てくれた時、着て貰おうと思って・・・・。」
今までハイランドで装ってきた闇の色とは反対の・・・・白。
眩しい程のその軍服を、は握り締めた。
「ありがとう・・・・。」
微笑ながら礼を言うを、ジョウイも笑顔で見つめた。
しかし・・・全てを捨ててきたでも、一つだけ気がかりがあった。
「ジョウイ・・少しいい?」
「はい。何でしょう?」
「私・・・ハイランドを裏切ったとき、何者かに追われていたの。」
和やかな空気が崩れ、ジョウイの表情が曇る。
「しかも一人じゃない・・・数も分からないし、正体も分からない・・・。
最初はハイランドからの追っ手かと思っていたんだけれど、結局それも分からず仕舞いよ。」
「・・・・それは・・さんが『黒』だったからですか?」
は今まで下へと向けていた視線をジョウイに向けた。
「やっぱり・・・知っていたのね。」
「すみません・・。今回ハイランドへと戻った時、調べさせてもらいました。」
内心シードから聞いたわけではないと知り、ほっと胸をなでおろした。
「ううん・・、黙っていた私が悪いんだもの。」
「・・・・・さんが、前に言っていた植えつけられた力というのは・・・その事だったんですね。」
前に・・・・・・。
恐らくミューズの道具屋でナッシュと分かれた後、雨の中ジョウイと話した時のことを言っているのだろう。
「ええ。そう。
その力を持っている私は、今あなたの隣にいる。
これからそうなる・・・・。
私は危険な位置にいる人間よ。
それでも・・・・それでもいいの?」
何故か苦しげにそう話すを、ジョウイは少し驚いた表情で見つめるも、すぐにふっと笑いかけた。
「初めてですね。そんな表情を見せてくれたのは・・・・。
さんが今まで何をしてきたかなんて関係ありません。
僕の力になって下さい。」
そう・・・・そうか・・・・。
受け止めてくれるんだね。
はゆっくり閉じた瞳を、またゆっくりと開いた。
「これを、見て欲しいの。」
は、重く、そして鈍く光るを取り出した。
「これは・・・・。これが『黒』だった貴女の武器ですか・・・・。」
『黒』の力・・・。そう呟いてジョウイはにそっと触れた。
「そう。私はこのと共に生きてきた。本当はもう一つあったのだけれど・・・戦争の最中無くしてしまったの。」
に手を乗せ、ゆっくりと撫ぜるそのジョウイの手に、自分の手を重ねた。
ジョウイの純粋な瞳の色がこちらへと向けられる。
「これからは『黒』の力としてではなく、自分自身の力として・・あなたのために使うわ。」
「さん・・・・。」
ジョウイはから手を離し、服の袖のボタンを外した。
不思議そうにその様子を伺っていると、ジョウイらしい白い腕が出てくると共に出てきたのは、
信じられない模様がそこには刻み込まれていた。
「こ・・・れは・・・!」
赤黒く・・・炎の剣のようなものを象っているそれは、紋章なのだろうと無意識に理解は出来たが、
ただの紋章ではないのだろうという恐怖心を大いに沸かせた。
驚きで表情の固まっているだったが、それに対してジョウイは何事も無かったかのようにそれをしまった。
静かな面持ちでボタンを留めながら、ジョウイはようやく口を開いた。
「これは・・トトの村で見つけた、『黒き刃の紋章』。真の紋章の一つです。」
「真の紋章・・・・。」
「はい。も、同じ場所で見つけた『輝く盾の紋章』を宿しています。」
「二人とも・・真の紋章を宿しているというのっ?」
「・・ええ。あの時の僕たちは力が欲しかった。すぐにでも手に入る、絶大な力が・・・・。」
「でもっ・・それを宿すとどうなるかっ!」
ジョウイの腕を力強く掴んだ瞬間、彼は微笑んだ。
いつもどおりの笑みだったはずだ。
でも、どこか哀愁漂う・・・・そして恐怖を感じているような笑顔に思えた。
「さん、その事は今度ゆっくりお話をしましょう。
今は、ちょっと一緒に来て欲しい場所があります。それに着替えて来て貰えますか?」
どこか納得いかない会話の終わり方だったが、これ以上真の紋章の事でジョウイを攻めても仕方ない・・。
は自分の手の中の軍服に目を落とし、分かった。と、頷くしかなかった。
そうして、初めてその白を纏って、ジョウイとグリンヒルの街を歩いた。
「行くところがあります。」
そう言って連れて来られたのは、街の広場だった。
何やら市民が集まっており、ざわついている。
ジョウイは広場の手前で立ち止まり、彼らの見えない所でじっと黙った。
そうしていると、ラウドのあの声がはっきりと聞こえてきた。
「よく聞け!!ハイランドの皇子、ルカ・ブライト様からの布告だ!!」
まるで死の宣告かのように響くその言葉を、
は怪訝そうに耳へと通した。
(ルカ様からの・・・布告?)
「元グリンヒル市長代行テレーズを捕らえた者には、2万ポッチの賞金と、
ハイランド王国市民権を与える!!!」
広場に集まった市民が大きくどよめく。
(なんて事を・・・・。市民にテレーズ様を差し出せというの・・・・。)
ふとグリンヒルとの戦いに手を貸したであろうナッシュの姿を探したが、
広場に彼の姿を見つける事は出来なかった。
「そんな事信用できるか!!」
「そうだ!お前達は平気で裏切る事ができるやつらじゃないか!!!」
ラウドの・・・ルカの出した条件に、市民達が不平を溢す。
(信じられなくて・・当たり前・・・・か。)
無言でその様子を見つめるジョウイに、そっと視線を向けた。
その無と言える表情からは、彼が今何を考えているのかを読み取る事は出来ない。
しかし、きっとジョウイは心を痛めているに違いないとは感じた・・・。
「ジョウイ・・・・。」
ジョウイの言葉が返ってくる代わりに、ラウドの大きな声が響いた。
「何だと!貴様ら!俺の言うことが信用できないと―――――」
その瞬間、ジョウイは何の合図もなく一人その広場へと足を踏み出した。
「あ、ジョウイっ?」
は思わずジョウイの後を追った。
突然現れた少年の軍団長に、の存在など気づいていないかのように市民は再度どよめいていた。
ラウドは驚きと同時に、いかにも嫌そうな表情をする。
ジョウイは周りの事を全く気にしていないかのように、凛としたその声を響かせた。
「グリンヒル市民の方々、聞いていただきたい。
先日の不法な取調べについては、既に調べを行い当時者に、罰を与えている。」
その声が響くと共に、市民は口を閉ざしジョウイの言葉を静かに聞いていた。
(不法な取調べ・・・?そういえば数日前に、ラウドが宿屋に火を放とうとしてまでテレーズ様を見つけようとしたって・・・・。)
「これはハイランドの皇子、ルカ・ブライト様からの正式な布告。約束はこの首にかけても守る。
ただし、一つだけ条件がある。
テレーズは必ず生きたまま捕らえてもらいたい。王国軍は、死体に金を払う気はない。」
(ジョウイ・・・。)
は、ジョウイが残酷な言葉を発する度に切ない思いでいっぱいになった。
そんな中、再度市民たちが騒ぎ出す。今度は先ほどのようなどよめきではない。
ジョウイの確実な約束に、高揚しているようにも感じられた。
そんな人混みの中、大人たちの足元を潜って一人の少女が現れた。
その少女に、ジョウイもも驚きを隠せない・・・。
「ピリカッ・・・?」
「ピリカちゃん!」
その言葉を二人が出したと同時に、彼らが現れた。
「!!!」
誰よりも先に自分の名を叫んだのは・・・フリックだった。
驚きで固まっているフリックの前で、ナナミがピリカの肩に手を置きながら口を開いた。
「どうして・・・?どうしてジョウイとさんが!?」
混乱しているナナミの隣で、は困惑しているものの、どこか冷静な口調で言葉を出した。
「ジョウイ・・・・どうして・・・・・・・。」
その言葉を呆然と出すを横切り、フリックが出ようとした。
しかし、今にもこちらに飛び掛りそうな勢いの彼を、見知らぬ少年が引き止める。
フリックはそれにも関わらずに向かって叫んだ。
「!!何故お前とジョウイが・・・!?どうしてなんだ!!」
ごめんね・・・フリック・・・・。
そう心で呟いた。
本当は口に出してそう言いたかった・・・・。
しかし、達から視線を逸らし黙っているジョウイを放って、
自分だけ意のままに動くわけにはいかない。
ましてや今はラウドや王国兵、そして市民達の目があるのだ。
自分の失態でジョウイの立場を危うくさせてはいけない。
(フリック・・・・。
ごめんね・・・。ごめんなさいっ・・・・・)
が辛そうに、まるで痛みを感じているかのような表情で彼を見つめる。
その真っ直ぐな青は・・・変わらず自分を捕らえていた。
フリックが更に何かを言おうとしたその時、誰かの声が響いた。
「おい!そいつらを捕まえるんだ!!スパイだ!!そいつらはスパイだぞ!!
捕まえたら金が貰えるぞ!!!」
その声に反応した市民達は案の定大混乱になった。
ラウドが慌てて彼らを捕まえようとするが、動き回る市民にもみくちゃにされてしまっていた。
その騒動の中、目の前まで来ていたピリカも皆も姿を消していた。
もちろん・・・・フリックも。
最後に自分の名を呼ぶフリックの声が響いた・・・・。
「・・・・。」
ジョウイは彼らがいなくなった方向を見ることも無く、ただそう呟いた・・・・。
「ジョウイ・・・。」
「・・・すみません。さん・・・。貴女にまで辛い思いをさせてしまって・・・。」
「私は・・いいのよ。それよりあなたの方が――――」
ジョウイに語りかけようとした時、彼の視線が何かを捕らえた事に気づく。
途中にした言葉をそのままに、ジョウイの視線の方―――後ろへと振り返った。
そこにはクルガン・・・・。
そしてその後ろに・・・シードの姿があった。
どんな時も視線を外さなかったシードが・・・・・・
私を見ていなかった。