――――――――「俺の傍にいてくれないか。」
私は・・・・また約束を果たせないの・・・・・・・・?
王国軍が迫る中、は咄嗟にジョウイに手を引かれ、また走っていた。
何処に連れて行かれるのかも分からず、けれどもそこに不安はなく・・・・・、ただジョウイの事だけを不安に思った。
(ただ闇雲にあんな事をしたわけじゃないはず・・・。何か考えあっての事なのだろうけれど・・・・・・・。)
だからと言って、彼のしたことは都市同盟の人間にとってはもちろん、傭兵隊の人たちやビクトール、フリック。
そしてやナナミ・・・ピリカを裏切った事になる。
(いや・・・・全てが裏切りとは限らない・・・・・。)
いつの間にか林が開けた場所で、ジョウイは握っていたその手を離した。
「ジョウイ・・・・。」
「ここなら大丈夫です。すぐにミューズを離れてサウスウィンドゥへ向かってください。」
「え・・?」
「恐らくビクトールさん達のことですから、まず仲間が落ち合える場所を決めているでしょう。
ここからならグランマイヤー氏のいるサウスウィンドゥが一番適切です。」
「・・・・・・・・・。ジョウイは?ジョウイは一緒に――――」
「それは・・できません。」
力強く言われた拒否の言葉は、分かっていたのにも関わらずの心へと深く染み込む。
しかし、そこで簡単に引くわけにはいかなかった。
ジョウイのためにも・・・・・・・のためにも。
「それなら私もできないわ。」
「さんっ!」
「ジョウイも行かないのなら私も行けない。」
「僕は貴女に死んで欲しくないんです!早くっ・・ここから逃げて下さいっ!」
「それは・・私も一緒なのよ。」
焦り声を上げるジョウイとは反対に、何故かは落ち着きのある表情を見せていた。
(私は・・・・恐らく王国軍に殺される事はないわ・・・・・・。)
戦乱の中ならば命を落とす事はあるかもしれない。
しかし、今やミューズはほぼ墜ちている状況だ。
恐らく王国兵は傭兵や市民などの捕虜を行っているだろう。
(そうすると・・私が捕まった場合すぐにシードかクルガン様が気付いて・・・・・・・。)
ハイランドに戻ることになってしまうだろう。
そして、またいつものあの暗殺者としての自分に・・・・・――――
自分ではない自分に戻されるかもしれない・・・・・・・・・。
しかしそれでも一度は国を裏切った身。
命の保障があるとは限らない・・・。
(でも・・・・彼を置いてはいけない。)
は先ほどジョウイから離れていったその手を再度握り締めた。
「ジョウイ・・・私はあなたと一緒に行くわ。」
「さんっ・・!?な・・・何を言っているんですか!」
ジョウイは反射的に握られたその手を振りほどこうとした。
それでもその温もりが離れる事はなかった。
「には・・大丈夫。ナナミちゃんが付いているわ。ナナミちゃんにはが付いている。
そう思ったからこそあなたは・・・離れる事を決意したんでしょう?」
「・・・・・・。」
ジョウイは動きをぴたりと止め、切なく瞳を細めながらの眼差しを受ける。
「あなたには・・・・・・私が付いているわ。」
そしては表情を確認することも無く、
震える目の前の大きくも小さい少年を抱きしめた・・・・。
久しぶりに感じる人という温もりに、ジョウイはそれに寄りかかりそうになる。
そして、が本気なのだという事を真っ直ぐに感じていた。
「さん・・・・・。」
閉ざされた瞳から涙が流れた・・・・・。
ジョウイから体を離され、は意を決した表情をしながらも
少し不安げな瞳を目の前の少年へと向けた。
ジョウイの頬にはあの雨の日とは違う・・・それでも美しい涙が流れていた。
「ジョウイ・・。」
「・・・・駄目です。」
「えっ・・・?」
再度彼の口から出た拒否の言葉に、は瞳を大きく見開いた。
一瞬自分が付いていくことを承諾したかのように見えていた分、驚きも大きかった。
頬に一度だけ流れたその涙を拭うことも無く、ジョウイはを真っ直ぐに見つめたまま続けた。
「今の僕には・・まだ貴女を守る事は出来ない・・・。」
「そ・・。」
(そんなっ・・・・・。)
は大きな哀しみを顔にいっぱいに出したが、すぐに唇をかみ締めながらまたジョウイの手を掴んだ。
「私はっ・・誰かに守ってもらおうなんて思わないっ!」
「さん・・・・・。」
そしては再度彼の身体を抱きしめた。
優しく・・・そして強く。
――――――自分の身体よりも大きいはずなのに、何故こんなにも小さく感じてしまうのだろう・・・・。
そんな不思議な少年をは力いっぱいに包んだ。
「私が・・・私があなたを守るから。」
こんな約束をしてしまっても・・・・・・・・もしかしたらまた破ってしまうかもしれない。
何度もそんな裏切りを繰り返す私が・・・・・・・・・それでも初めて自分から交わした「約束」。
ジョウイは何か言おうとした口を閉ざし、
肩を少しだけ震わせ、の肩へゆっくりと顔を埋めた。
「今・・は・・・・・無理だけど・・・・・。」
そしてその大きくも小さな手を怯えながらもの背中へと回した。
「もう少ししたら・・・・・・・。」
「うん・・。」
「もう少ししたら・・・・そう・・したら・・・・・僕の元へ、来てくれますか?」
木々が揺れるその叫びが・・・・・・私を呼んでいるような気がした。
「約束するわ・・・・。」
そんな約束をしている私達を
遠くから赤い瞳が見つめていたなんて・・・・・・・・・・
私は全く気付かなかった。
