たくさんの人と出会い、


 様々な話をし、





 笑い 怒り 時には泣いたり。


























 そして多くの血を流し合う・・・・・・。


























 まだまだ、この時の私に想像もつかないことが

 これから待っているのだ。


















 「く!!」
 すばやく体勢を直し、間一髪で自分へと振り下ろされた剣を受け止めた。
 技術は五分五分と言ったところだが、力では若干押されている。

 (こんな状況で相手の仲間が増えたり紋章でも使われたらっ・・・!)



 そして相手の持つもう一つの武器に、は目を疑った。



 敵は剣を持っている反対の手をその暗闇のマントの中に入れ、

 黒いそれが風で揺れた瞬間―――――




 同じ黒いものをそこから出した。

















 「――――何故・・それを・・・・。」























 まさしくそれはガン―――「銃」だった。

 一瞬自分の落としたかと思ったが、よく見てみるとその姿形は全く違い、
 よりも少し大きめなものだった。
 しかし、それでも自分の以前使っていたものとよく似ている事もあり、
 は相手が持っているそれに見入る。

 そして嫌な汗が顎へと流れた。

 「貴様・・・何故それを持っている。」

 「・・・・・・・・。」

 当たり前のように相手は黙ったままだ。
 右手には剣。左手にはガン。
 その異様な組み合わせと構えに、は初めて足が後ろへと下がった。

 (危険すぎる・・・・。)

 ましてやここは街のど真ん中だ。
 銃声の一つでも鳴れば誰かがここへ来てしまうだろう。
 それが市民でも、
 ――――仲間でもどちらにしても危険だ。
 以前にフリックと共に襲われた時の事を思い出し、はぞっとした。

 汗で滑る剣を握りなおす。


 その時、向こうの気配がこちらへ攻撃する空気へと変わった。
 (ここは・・・・逃げ切って一度ミューズを離れるしか・・・・・・・!)



















 「貴女は・・・・・・・・。」






















 「!!??」


 と敵は、はじかれる様に同時に声のある方へと目をやった。


 ――――昼に出会ったマチルダ騎士団の騎士だ。


 「・・・・。!!」
 一瞬呆気に取られてしまい、即座に敵のいた位置へと視線を戻す。
 しかしその場にいたはずの闇の存在はすでにそこにはいなかった。
 元から、その黒とこの夜の闇に溶けていたため、存在感はあまりなかったが・・・・・・・、
 にとっては十分威圧感のある空気だった。

 まだいるかもしれないと、辺りに神経を張ったが既に黒い気配はなく、
 ようやくは止めていた息を吐き出し、剣を鞘へと戻した。
 そしてふと少し離れたところにいる騎士へと視線を戻す。
 彼はの只ならぬ様子をすぐさま感じ取ったのか、と同様、辺りを警戒しているようだった。
 そして彼も辺りは安全だと判断し、大きなため息を吐きと視線を合わせた。
 「大丈夫でしたか?」
 そう言いながら美しい姿勢のままこちらへと歩いてきた。
 普通に歩くだけでもこれだけ「綺麗」な男性はいないだろう。
 騎士とは皆そうなのだろうか・・・・?今まで戦っていたにも関わらず、そんな疑問を浮かべながら
 は近づいてきた騎士へと少し笑みを浮かべる。
 「大丈夫です。・・・・・・・・見ましたか?」
 騎士は、はっきりと表情が見えるくらい近くへと来て、再度辺りを警戒した。
 周りへと視線を巡らせながら、その綺麗な形の口を動かす。
 「いえ。この目で確認することはできませんでしたが、
  何かおかしな空気がしましたのでこちらへ向かったのですが・・・・・・・。」
 周りへと視線を回していた瞳が、ようやくの瞳へと落ち着いた。
 「そうでしたか。・・・・・・・・・外へ出たところを襲われてしまって・・・。」
 「・・・・・・・・。」
 あまり沈黙をするような人には見えなかったが、その一瞬がを不安にさせた。

 (ガンを・・・・見た?)

 「あの――――・・・・・」
 「女性がこのような所に傷を作ってはいけませんよ。」
 そう言いながら騎士はいつ出したのか分からないハンカチで、の頬を優しく押さえた。
 「――っ・・・。」
 ピリっとした痛みが一瞬走り、その真っ白なハンカチを見てみると微かに血がついていた。
 「あ・・・・・・。」
 自分でも気づかないうちに傷が出来ていたのだ。
 思わず傷口へと触れようとしたに、騎士がそっとその手を止めた。
 「あまり触れないほうがいいです。これで押さえていて下さい。」
 の手を止めた反対の手で、優しくハンカチを何度か傷口へと触れさせた。
 その度にまっさらな白の布に、の赤が埋められていく。
 は思わずその布を自分から離した。
 「よ、汚れてしまいます!」
 急にそれを拒否された騎士は、その瞳をぱちくりと動かした後、
 これでもかというくらいの笑みを浮かべた。
 「良いのですよ。」
 「で、でもこれはあなたの―――」
 「これはもう貴女に差し上げたものです。それならば構わないでしょう?」
 うっと詰まったの手に、その白が握られた。

 おそらくこの人には口で敵うことなんて出来ないのだろう。

 そう素直に悟り、はその赤を含んだそれから、再度その騎士の瞳を覗いた。
 相も変わらず笑顔が浮かべられている。
 は小さく唸りながらも、軽く頭を下げた。
 「ぁ、ありがとうございます。えー・・と。」
 「紹介が遅くなってしまい申し訳ありません。
  マチルダ騎士団、赤騎士団長のカミューと申します。」
 名を名乗りながらその騎士は、右手を胸に添え丁寧にお辞儀をした。
 その丁重さに、も思わずもう一度頭を下げる。
 「あ、といいます。」
 「さん・・・素敵なお名前ですね。」
 「ぁ、あ、ありがとうございます。」
 と、は頬を染めながらも、騎士さまというのは恐ろしい。と微かに思った。
 「貴女とは確か・・・丘上会議で?」
 「はい。あの時は失礼しました・・・。」
 「いえ。こちらこそ、お連れの方を怒らせてしまったようで。」

 (お連れ・・・?)
 あまり使わない言葉にふと疑問が浮かび、すぐに先程まで言い合っていた青が浮かんだ。
 「ご、ごめんなさい。いつもならもう少し愛想がいいはずなんですけど。」
 「ふふ。構いません。原因はこちらにあるようですし・・・。」
 「? はあ・・・。」
 全く理解が出来ない内容に、は疑問の表情を浮かべるが、
 相手も別に気にしているようではなかったので、質問することはなかった。
 それに、先程の事が頭に浮かび、あまりフリックの話をする気になどなれなかった・・・。

 「それでは、家までお送り致します。」
 「えっ?」
 突然の言葉には大きな声を出し、その口を塞ぎながら辺りを気にして見渡した。
 「怪しい者にまた襲われないとは限りません。お送りいたします。」
 さも当然と真っ直ぐに瞳をこちらへ向けてくるカミューに、は頭と手を左右にブンブンと振った。
 「い、いいえ!あの、用事がまだありますので!」
 「しかし・・・こんな危険な事があった後で、女性を一人で歩かせるわけには行きません。」
 カミューは少し険しい表情のままこちらを見つめていた。
 (でも・・まだナッシュに会ってないし・・・・。)
 「あの、私、本当に大丈夫です。すぐに知り合いと合流しますし。」
 「・・・・・・・・。」
 の力のない言葉、しかしはっきりと拒否する言葉に、カミューは少し眉を顰め、
 そして仕方のないと言うような笑みを浮かべた。
 「そうですか・・。分かりました。」
 「ごめんなさい。でも、有難うございます。」
 「いいえ。女性を守るのは騎士の務めでもありますから。」
 普通の人が言ったのなら、皮肉に聞こえるその言葉も、カミューが言うことによって誰しもが頷ける言葉へと変わる。
 (『騎士』が本当にぴったりな人なのね。)
 も笑みを浮かべ、カミューから貰ったハンカチを胸元まで上げ、
 「これも、有難うございます。」
 そう礼を言って深く頭を下げた。
 カミューは先程とは違う笑顔を見せ、「お気をつけて。」と一言いい去って行った。

 はカミューが見えなくなるまで見送り、
 再度回りに気配がないかを確認した。



 (誰もいない・・・わね。)



 そして人がいないということに、一気に緊張を解き、
 大きく息を吐き出した。

 そしてカミューから貰ったハンカチで頬の傷を軽く押さえ、
 先程の黒い敵を思い浮かべた。
 (あれは・・・・。追っ手?ハイランドにガンを持つ人間なんていたかしら・・・・・・。)
















 そしてシードが言っていた言葉を思い出した。


 ――――――「俺はハイランドの線は薄いと思うぜ。」

















 確かにハイランドという決め手はない。

 しかしハイランドではないという決め手もない・・・・・・。



 ハイランドの暗殺者として生きていた自分。

 そのハイランドを出、そして裏切るという形となって都市同盟へと来た自分。

 その直後に現れた追っ手と思われる黒い男達。

 確かに自分の名を知っていた・・・・・・・・・・。



 これだけ揃えば、やつらはハイランドの者だと思うのは当たり前ではないだろうか?


















 は血が止まりつつある傷口からハンカチを離し、そっとそこへと触れた。


 乾き始めているそこは、何ともいえない痛みが走り、

 少し熱いとさえ感じた。






 (・・・・・・・・・・・・・・ナッシュを探そう。)

 遅くなってはいけない。

 そんな事が頭を過ぎり、は足を進めた。





















 レオナからは、ナッシュは買い物に行くと言って出かけたと聞いている。
 そうすると一番足を運んでいそうなのは道具屋だ。
 (もう閉まってないかしら・・・。)
 少し不安に思いながらも、何度か行った事のある道具屋へと向かった。

 見えてきた道具屋は、看板は仕舞われているものの中の明かりは点いているようだ。
 は少し駆け足でその扉へと近づき、軽くノックをしてからノブを回した。

 可愛らしい鈴の音が鳴りながら扉が開かれ、すぐ目に入った店主はまだ作業をしていた。

 「いらっしゃい。」
 ちらりとこちらを見てまた作業を始めた店主は、店仕舞いぎりぎりにも関わらず、
 全く気にする様子もないようだ。
 は軽く頭を「どうも。」と下げ、店の扉を閉めた。
 狭い店の中を見渡しても、ナッシュはいない事がすぐに分かる。
 すぐに帰るのも悪い気がし、まずは店主へと声をかけた。
 「あの、こちらに金の髪で、長身の男の人が来ませんでしたか?」
 店主はふと顔を上げ、の顔をじっと見た後に口を開いた。
 「ああ、その人なら奥で道具を選んでいるよ。」
 「奥?」
 「店に並べてる物だけじゃ足りないって言うんでね。ほら、そこの奥さ。」
 は店主が指差す扉へと目を向けた。
 「ありがとう。」
 そう言いながら奥の扉へと足を進める。
 店主は「あいよ。」と一言いい、また作業を始めていた。


 とにかく戦いがいつ始まるか分からない・・・・・・・・。
 恐らく、ナッシュがこの戦いに関わるとは考えられなかった。
 それならば早くミューズから逃げてほしい。
 逸る気持ちでそのノブを握ろうとしたその時、先に中から扉が開かれた。
 「うわ!」
 「っ!!」
 突如開かれた扉を開いたのはもちろんナッシュだった。
 「!?」
 自分だと気づいたナッシュは、驚きながら声を上げ、すぐにその口を閉じてしまった。
 何故かその表情は浮かない。
 あまり見ることのない彼の表情に、少し疑問もあるが、とにかく今は事情を話したかった。
 「ナッシュ。話があるの。」
 「・・・ああ。」
 頷きながら、ナッシュは奥の部屋へとを入れ扉を閉めた。
 もちろん、店の人に話を聞かれないようにだろう。
 ナッシュは散らばった道具を整理し始めた。
 「よく奥の部屋なんて入れてもらえたのね?」
 すぐに戦いの話を始めたかったが、思っている以上にナッシュの様子がおかしいと感じ、
 は少しぎこちないながらも世間話を始めた。
 「ああ。ミューズにいる間はここでいつも買い物してたからな。
  まあ常連になれば少しはサービスしてくれるさ。」
 「そう。」とは一言応え、近くにあった一つの椅子に腰掛けた。
 そんなに構うこともなく、ナッシュは手を動かしたまま口を開いた。
 「ここで一纏めしたら、俺はすぐにミューズを出る。」
 そのはっきりとしたナッシュの言葉に、は勢いよく椅子から立ち上がった。
 「やはり知っていたのっ?」
 「当たり前さ。俺の情報源は確かなんだ。」
 そう言いながらナッシュは会話をし始めて、初めてと目を合わせた。
 笑いながら見つめてくるその瞳は、いつものナッシュの色をしていた。
 「そうだったの・・・。良かった。ナッシュに戦いの事を伝えたくて急いで来たのだけど、
  無駄足だったみたいね。」
 はほっと息を吐き出し、椅子へと再び腰を下ろした。

 一間置いた後、ナッシュの手が止まった。


 「無駄足じゃないさ。」

 「え?」


 ナッシュは立ち上がり、こちらへと向かって足を進めた。

 すぐ近くまで来たナッシュをが見上げる。


 真剣なその色に心臓が大きな音をたてた。



 「。」

 「何?」



















 頬の傷が更に熱くなる。





















 「俺とミューズを出よう。」








































































 もちろん私は断るつもりでいた。