戻るのが遅くなってごめんなさい・・・・・。























 こんな私に


 あなたは「おかえり」と言ってくれる・・・・・?




























 黄昏色に染まる街へナッシュと二人で足を踏み入れた。
 
 以前に来たときは、夏の日差しがこの街を包んでいたが、
 今は木の葉が一枚二枚と、秋の訪れを見せ始めていた。

 何一つ変わらないのは、この街の平穏さとにぎやかなところだろう。
 相変わらず大きな道には店が繰り出され、人々の声が響き渡り活気で満ち溢れていた。

 「さてと、俺は宿屋に戻るけど、はどうするんだ?」
 「あ、多分私の仲間も宿に泊まっていると思うから、一緒に行こうかな。」
 「そうか。じゃあ感動のご対面でも拝むかな。」
 「ふふ。それほどでもないと思うわよ?」
 「はは。・・・・・・ん?」
 「どうしたの?」
 急に立ち止まり、空を見ながらナッシュが立ち止まった。
 「ああ!!!」
 「え!?」
 何も喋らなくなったと思ったら、今度は急にナッシュが声を張り上げた。
 何事かと肩を叩こうかと思った時に突然聞えた大声に、はびくりとその手を引っ込める。
 「な、何?」
 ナッシュが何かを見つけたようで、それをも見ようと目を凝らす。
 ナッシュは空を見て険しい顔をしている。
 もその空を眺めるが、鳥が飛んでいるだけで何も変わった様子は無い。
 (ん・・・?鳥?)
 まさかと思い、再度ナッシュへと手を伸ばした瞬間―――――。

 「ナッシュ!ナッシュ!」

 空を飛んでいたはずの鳥が、こちらへ目掛けて勢いよく飛んできた。

 「ナッシュ!レンラク!!カネ!!」

 バタバタと羽をばたつかせ、ナッシュの頭の上をウロウロと飛んでいる。
 ナッシュの頭の上には、橙色の羽がはらはらと落ちていた。
 「ナ・・・ナッシュ?」
 は、わなわなと肩を震わせているナッシュへと恐る恐る声をかける。
 「・・・・・・んだ・・・。」
 「え?」
 「どれだけ金がなかったと思ってるんだー!!!」
 「ひゃ!」
 ナッシュは勢いよく顔をあげ、悠々と飛んでいるその鳥に向かって叫んだ。
 怒りを露にするナッシュに対して、鳥の方は呑気そうだ・・・・。
 「バツ!バツ!バカニシタ!バツ!」
 呑気・・というより、下でじたばたとしているナッシュを馬鹿にしているようにすら見える。
 そして言いたい事を言うだけ言った後、どこかへ飛び出した。
 「あ!!おいこら!待て!!金と報告書を!!!」
 「ちょっ!ナッシュ!?」
 その鳥を追いかけるように駆け出したナッシュへとが呼びかける。
 「悪い!!今あいつを逃すわけにはいかないんだ!!宿で会えたら会おう!!!」
 「わ、わかった!」
 「こらー!!!まてドミンゲスーー!!!」

 そしてナッシュはとてつもない速さでドミンゲスという鳥を追いかけていった。
 「・・・・・・・・。」
 先程の騒がしさが嘘のように静けさが辺りを包む。
 しかし、耳が慣れてきたように、また街のざわめきがへと届いてきた。
 その静けさのような騒がしさに、は我へとかえる。
 「あ・・。宿屋。」
 (どの辺だったかしら・・・・?)
 街の入り口近くだったことは確かだ。
 その辺まで引き返すため、は踵を返した。




















 「・・・・・・・・・・・。」



 呆然と立ち尽くしてこちらを見ている瞳とぶつかる。

























 一瞬の沈黙が続いた後、驚きの中にも関わらず先に口を開いたのはだった。
































 「フリック・・・・。」























 夕日に包まれる街の中で、その人だけは澄んだ青のままだった。


 思っていもいなかった再会のためか、フリックは驚きで目を見開いたまま黙っていた。
 「フリック・・・?」
 一度呼んだ時の反応が無かったため、一応もう一度その名を口にする。
 それでもフリックは動かない。
 フリックの代わりに、その空色のマントだけが応えるように揺れていた。


 そのマントがぴたりと止まった時、

 フリックがふわりと微笑んだ。
























 「おかえり。」














 「・・・・・っ・・・!」

 気がついたら走っていた。





 胸がきゅう・・と締め付けられた。
 その言葉を言ってほしくて・・・欲しくて欲しくてたまらなかった。
 新しい自分の居場所を確かめたかった・・・・・・。






 それをくれたのは

 フリックだった。


















 そして思い切り青へと飛び込んだ。

 フリックが優しく腕を回し包んでくれる。


 「おかえり。・・・・・。」

 「ただ・・・・・ま・・・・。」







 まただ。

 また、フリックの前で涙が流れた。


























 誰かの前でこんなに泣く事なんてなかった。

 以前に初めて人前で泣いた時、その相手もフリックだった。

 その時も・・・ただ呆然と涙を流した。



 その時も・・・・・・フリックは優しかった。





 「おかえり・・・・。」

 「た・・だいまっ・・・・・・。ただいま・・・・っ!」

 優しさがふわりと香るその胸に、顔をうずめて泣き続けた。
 人目なんて全く気づかず、
 ただフリックが髪を撫ぜてくれるその動きに心地よさを感じながら、子供のように泣いた。




































 「おかえり・・・・・・・・・。」


































 私が求めてる事が何か分かっているかのように、



 何度もその言葉を繰り返してくれた・・・・。