走った。



 とにかく走って、走って走って・・・・・・。



 休む事なんて頭になく、今考えている事は一つだけだった。






 (みんな・・・・!!)






 白鹿亭の女将さんに頼み込んで借りた馬は、休み無く走らせたため
 途中で走れなくなってしまった。
 そのまま放したので、主のもとへ自分で帰っただろう。
 あとは自分の足で、砦に向かって走り続けるだけだった。
 馬に無理をさせただけあって、かなり早いペースで進む事が出来た。
 普通なら2日はかかるものを既に1日で砦の近くまで来ていた。


 森の中を走り、目的地へと近づくたびに心臓の音が大きくなるのを感じた。
 それは走り続けた結果として聞こえてくるものではない。
 (この様子だと・・・もう戦いは始まっている・・・・・っ。)

 近づく戦場の匂い。

 今まで自分が経験してきた、ただ人を殺すだけの空気とは違う独特なその匂いを
 はユニコーン少年兵の襲撃以来、敏感に感じるようになっていた。

 (みんな・・・どうか、どうか無事でいて!)

 時々、自分の足にひっかかる枝や石で傷が出来ても、は全く気にすることなく走り続けた。
 気にかかるのは砦にいる皆の事だけではない。







 「フリックっ・・・。」

 思わず声に出して呼ぶその名を
 その人物を・・・・・
 宿を出てからずっとは呼び続けていた。

 自分が覚えている中では、フリックはあの黒騎士の魔法によって攻撃され、
 その身体は炎に包まれていた。
 あのままならば、命も危なかったはずだ。
 (・・・私と一緒にいた所為で!)
 フリックの事を考えただけで、は自然と走るスピードが速くなった。








 (そろそろ王国兵を見かけてもおかしくないはず・・・。)
 は、周辺の様子を見るため、一度足を止めた。
 そして近くにあった背丈のある木に登り、すぐ近くに見えるはずの砦を探した。


 (あった!!)
 
 「なっ・・・!!?」


 ようやく見つけた砦は、無数の王国兵に取り囲まれていた。
 目の前に一番信じたくなかった事実を突きつけられたは、その様子をただ黙って見つめた。
 開いたままの口と目は、恐ろしさと悲しさと、悔しさで震えた。

 「っ!」

 そしてすぐさま木から降り、また走り続けた。



 もちろん

 仲間の元に行くために――――。 






 流石に砦が見える距離まで近づくと多くの王国兵がおり、
 簡単には近づけないようだった。
 しかしこのような状況はにとっては得意中の得意。
 『人に見つからないように。』というのは本業である。
 (まあ、『元』本業だけど。ね・・・。)
 以前まで味方だった王国兵たちをは鋭い瞳で見つめる。
 (ビクトールの事だもの・・・。絶対皆を逃がすための道を用意しているはず。
  そこがわかれば、必ず誰かには会える・・・。
  達もピリカちゃんを連れて逃げているはずだもの。
  それだけの逃げ道があるはず!)
 幼いピリカを連れて逃げるということはそう簡単なことではない。
 しかし、彼らをビクトール達が足手まといになるからという理由で見捨てるとは考えられなかった。
 必ずどこかに道があるはず・・・・。
 (さっき、全体的に見渡した時の王国兵の様子からして、
  西が手薄になっているはずだわ。逃げ道にするならそこしか考えられない。)
 は周りにいる王国兵に見つからないよう西へと移動した。
 移動する範囲はさほど広くないが、これだけの兵の中を見つからないように移動するため、
 思った以上に時間を使うこととなってしまった。
 移動している間にも、人間の苦痛な叫びと、狂ったような雄たけびが耳に響いた。



 (思ったとおり、西は手薄になっているようね。)
 辺りはもう傭兵達と、王国兵達の屍が転がっているばかりだった。
 は自分の足元で息絶えている、両側の兵達を静かに見下ろした。
 「・・・・・・。」
 腰を下ろし、死んでも尚相手を捕らえようと見開かれている彼らの瞳を、そっと閉じてやった。
 それを閉じるだけで、先程の驚愕と化した表情は穏やかな眠りへと変わる。
 「こんなの・・・おかしい・・・・・。」
 今まで人を殺めてきた自分から出た、人を殺す事への批判の言葉。
 その自分の方がおかしいのではないかと思う事もあるが、
 自分は人の命を奪う事に対して、ずっと疑問に思ってきた。

 何故自分なのか?

 何故殺さなくてはいけないのか?

 殺さなくても・・・・いいのではないか?


 幼き頃からどこか引っかかっていた思いが、今一気に駆け巡る。




 は大勢の無くした命を見て、ようやく「間違っている」という事に気がついた。
 それに対して確信を持つことすら出来た。






 (もう迷うことなんかない。守りたいものを・・・・・・・守ればいいんだ。)
 




 は顔を上げ、砦を見据えて立ち上がった。
 そして柵の向こうへと入ろうとしたその時、信じられないくらいの地響きが足元をぐらつかせた。
 「何!?」
 大きな爆発音が聞こえ、今から向かおうとした砦からは炎が立ち上っている。
 何が起きたのか分からず、燃え上がるそれをはじっと見つめる。
 「魔法っ?・・・いや、違うわ。これは・・・・・。」

 確信はなかった。

 しかし、何故か感じたのだ。
 (ビクトールか・・・・・・、フリックね・・・・・・・。)
 これが王国兵の手によってされたことではなく、彼らの考えあっての事だと・・・・。
 はそう思った。
 そう・・・・信じたかった。

 「とにかく誰か探さなくちゃ!」
 もう砦に入る事は無理だろうと思い、
 踵を返して森へと向かおうとしたその時――――・・・・・・。







 は今日一番の驚きを目にする事となった。




























 「・・・・・・。」




























 「・・・・・シー・・ド。」