念には念を。





















 別にシュウを信用していないわけではなかった。
 ただ、報酬さえ払えば確実な信用ができるという男がいると聞いたら黙ってはおけない。

 (それにしても・・・・リッチモンドは気まぐれなところがあるからなぁ・・・・。)

 そう。
 の力になって欲しいとシュウに頼んだものの、
 自分の利益にならなければ、ましてや彼が仕事などの邪魔になるような事になれば、
 が逃げた時等に、かくまう事すらしてくれないかもしれない・・・。
 そんな時、どんな手を使ってでも良い。
 彼の味方になれる人間をこの街で作っておきたかった。
 (えーと、いや・・・・・シュウを信用していないわけじゃあないのよ?)
 思わず苦笑を漏らす。
 はシュウの屋敷を去った後、すぐにラダトを出ずに陽が暮れた街の中を歩いていた。
 リッチモンドをどうにかできないかと彼を探していたのだ。
 (内容が内容だけに高額の報酬を要求されるわよね。
  でも、シュウに無理やり持たされたお金はあまり使いたくないし・・・・。)
 は屋敷を出るとき、「報酬の余りだ。」と言って渡された自分の報酬を持っていた。
 を助けてくれるだけで十分だと言ったのだが、持っていけと無理やり渡されたのだ。
 (シュウも結局はお人よし・・・ってことかしら。)

 はリッチモンドがいつもいるはずの鑑定屋の前へとたどり着いた。
 案の定、彼はいつもの場所にいた。
 彼はの姿を見るなり、意外という表情をして軽く口笛を吹いた。
 「よぅ。じゃねぇか。」
 「どうも。」
 は別に、ラダトの街の中でよく顔を知られているというわけではない。
 むしろほとんど知られていない存在のはずだ。

 彼を抜かしての話だが・・・・。
 
 はリッチモンドへ近づき、彼のシャツの中にいつもいる動物の頭を撫ぜた。
 その動物はじっと無言でを見つめる。
 「この子は犬なの?」
 「ん?どっちでもいいじゃねぇか。
  そんなことより・・・・用があるんだろ?」
 「分かった?」
 「ああ、何でもお見通しさ。」
 「それなら話が早いわね。仕事を頼みたいの。」
 「おう。話を聞こうじゃねぇか。」
 の事と、シュウへの頼み事を話した。
 リッチモンドは腕を組んで黙って聞いている。

 「それで・・・・シュウが手助けをするように根回しをするか、貴方が直接助けるかを頼みたいの。」
 「・・・・・・・・なるほどな。」
 「頼んでもらえるかしら?」
 「ああ。いいぜ。」
 意外とあっさり了承をするリッチモンドだが、の顔は曇ったままだ。
 「それで・・・報酬なんだけど、あまり出せないの。」
 「おっと。それなら話は別だな。他をあたってくれ。」
 予想通り、引きも早い男だ。
 しかし、こんな人間ほど仕事を引き受けてもらった後の信用度が高いやつはいない。
 ここで引き下がるわけにはいかなかった。
 「お願い・・・。それ以外ならなんでもするわっ・・・。どうしてもに何かを残してあげたいの・・・・!」
 は深く頭を下げ、強く瞳を閉じる。
 「お願い!」
 強く悲願するに、リッチモンドは頬をかきながら軽いため息を吐いた。
 「・・・・・そうだな。よし。分かった。」
 了承の言葉にが勢いよく頭を上げる。
 「本当っ・・?」
 「ああ。ただし、条件がある。」
 「・・・ええ。」
 なんでもすると言った手前、どんな条件を出されるのかとに小さな緊張が走る。

 「このコインで勝負だ。」

 「コイン・・・?」

 意外過ぎる内容には瞬きもせずリッチモンドを見つめた。
 「ああ。このコインの裏が出たか、表が出たかを当てたら協力してやろう。」
 「そ、そんな事でいいの?」
 「文句あるのか?」
 「あ、ううん。報酬は・・・・・。」
 が不安げにリッチモンドを見ると、彼は軽くウィンクをして握り締めた拳の親指にコインを乗せた。
 「・・・・・ありがとう。」
 「礼を言うのはまだ早いぜ。仕事を引き受けるのは、勝負であんたが勝ってからだ。」
 リッチモンドは口の端を上げると、ピン―――と小気味のいい音をたててコインを弾いた。
 はスローのように宙を飛んでいるコインへと視線を集中する。

 「・・・・・・・・・・。」

 そして一瞬にしてコインは再びリッチモンドの手の中へと収められた。

 「・・・・・・・・さあ。どっちだ?」

 「・・・・・・・・・。」

 は、コインがその中に入っているであろう彼の拳をしばらく見つめ、小さく息を吐いた。
 そしてリッチモンドと視線を交わす。

 「リッチモンド。」

 「なんだ?」

 「・・・・・・・私、インチキは嫌いなの。」

 「・・・・・・・・・・・。」

 が冷たい目線をリッチモンドに向ける。
 リッチモンドはすぐに口の端を上げ、声を上げて笑い出した。
 は何が起きたのかと瞬きを繰り返す。
 「ははは!流石だな。シュウが用心棒に雇うだけの事はある。」
 「??」
 「いや、お前ならからくりが分かると思ったぜ。」
 「なら何故こんな勝負を?」
 リッチモンドはそのコインをポケットへと仕舞い、ニヤリと笑みを浮かべた。
 「さあなぁ。俺の気まぐれだ。」
 「? そう・・。」
 はどこか納得のいかない様子で、先ほどのコインが仕舞われたポケットを見つめた。
 「ただし―――」
 「ただし?」
 再度口を開いたリッチモンドに、が首をかしげる。
 「そのというやつも、どんなやつか会って見極めさせてもらう。俺が協力するかはそれからだ。」
 「そう。それなら大丈夫よ。」
 はリッチモンドのもう一つの条件を聞き、自信たっぷりの笑みを作った。
 その表情を見て、リッチモンドも何かを既にお見通しのような表情を見せる。
 「それじゃあ・・・頼んだわね。」
 「ああ。任せておけ。」
 「期待してる。」
 最後の言葉を聞き、は笑いながら踵を返した。




















 「仕事はパーフェクトに・・・・だ。」






























 は確実な安心感を感じながら、ラダトの街を出て東へと向かった








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