意図的なすれ違い






























 「悪い!!今あいつを逃すわけにはいかないんだ!!宿で会えたら会おう!!!」
























 そう言って俺はから逃げ出した。

 言われた本人は、流れで仕方なく同じたようだったが・・・・・・・・。



















 「ったく・・。ドミンゲスの奴、手こずらせやがって。」
 ようやくドミンゲスを捕まえたナッシュは、裏路地へと入り報告書の確認と
 それと一緒に入っていたお金の額を数えていた。
 「・・・・はぁ。まあこんなもんか・・・。」
 想像以上に少なかった金額にため息を吐きながらも、これで少しは食い物にありつける。と安堵をみせた。
 ふと細い道の先にある広場を見つめる。
 少しだけ・・先程分かれたのその後が気になった。

 (一緒に宿屋に行けば良かったかな・・・。)



 しかし本心はそう思っていなかった。

 あの少女達のもとへ帰ったジョウイを見たあとに、
 更に彼女が仲間と言っている大切な人との再会を見る勇気は無かった。

 嫉妬に包まれる自分なんて見たくない。

 ―――――見せたくない・・・・・・・。







 「はぁ、俺もノミの心臓だよなー・・・・。」
 ナッシュは苦笑と共に大きな息を吐き出した。


 ふと彼女の笑った顔が頭を過ぎった。


 綺麗な女性だとは初めて会った時から思ってはいた。
 しかし、別にだからどうということは無い。
 出先で出会って、(俺の)運が無く途中で逸れる事になって・・・・。
 そして偶然にもまた彼女と再会することになった。

 ――――全身血だらけの・・・・・・。

 呼吸はか細く、ヒューヒューとどこからか音がでていた。
 目は重たく閉ざされ、名前を何度呼んでも全く反応がなかった。

 流石にあの時は冷や汗が出た。
 いつもは冷静に考え、慎重かつ手早く事を行うことができたはずなのに、
 あの時は身体が凍ったように動かなかった。
 早く傷を塞がなければ――――!
 そう思っても動かす手からするりと札が落ちる。
 ようやく使うことが出来た札を握る手は、微かに震えていたのを覚えている。


 そして一命は取り留めたものの、すぐに自分の前から姿を消した。











 そしてまた偶然が重なり出会った。

 (そういやとはまともな出会いって一度もしてないな。)
 ふっと笑いながらとの再会を思い出す。



 気にはなってきている。

 どこの誰かもはっきりしない女に、だ。


 冷静で冷たかったり、急にくったくなく笑い出したり、話すのが苦手だったり。
 そしてとてつもなく武に長けていたり・・・・・・。


 

 「危ないかもなー・・・・。」

 (と関わるのは。)














 これ以上彼女と関わると自分がどうなるか分からない。
 自分も別に自由に旅をしているわけではないのだ。

 ―――の傍にいたいと思ってしまったらどうする。


 そうなった時の事など想像はつかないが・・・・・・・。

 (・・・・まあそん時はそん時考えるか。)





 そして再度ちらりと道の先にある広場へと目をやった。


























 先程からナッシュの瞳には

 抱き合う男女の姿がずっと映し出されていた。


































 青に包まれている・・・・・・。
























 
 ナッシュはそこへ座り込み、二人がいなくなるのを待った。























 ナッシュはただぼうっと空を眺めていた。
 海色の瞳に映る空は既に星空が散りばめられていた。

 「そろそろ・・行くか。」

 しばらく座ってしまっていたため、その重い身体をナッシュはゆっくりと立ち上げる。



 今ならもう会っても大丈夫な気がした。















 久しぶりに帰ってきた宿へとナッシュが足を踏み入れると、
 そこには数人の客と、カウンターの女将。
 そして先日こぼれた拳を当ててきた男が一人で飲んでいた。
 ナッシュが扉を閉めると、カウンターで作業をしていた女将がこちらに気づいた。
 「ん?ああ、ナッシュさんかい。留守が長かったね。」
 「ああ、まあね。腹が減ってるんだけど、何かもらえるかい?」
 「ああいいよ。ちょっと待ってな。」
 ナッシュが手袋を外し、カウンターへと腰掛けた。
 カウンターの中には、誰かが食べただろう使い終わった食器が並んでいた。
 それを洗っていた途中の女将がその手を止め、食事の準備にかかった。
 「悪いね。もう終わりだったんだろう?」
 申し訳なさそうに聞くナッシュに、女将は軽く笑みを浮かべながら口を開いた。
 「なぁに、これが商売だからね。」
 そう言いながらナッシュの前に少し強めの酒を置いてくれた。
 「・・これ少しキツイやつじゃないか?」
 「今日はそういうのがいいと思ってね。」

 少しぎくりとした。
 (ホントこの女将には敵わないな・・・。怖いくらい勘がいい。)
 ナッシュは少し緊張を残しながらも、目の前にあるグラスへと口をつけた。

 「なんだ?女にでも振られたか!?」
 「うわ!」
 がばりと後ろから腕を回してきたのは、一人で飲んでいた大男だった。
 「ビクトール、お客に絡むんじゃないよ。」
 「なんだよレオナ。俺だって客だぜ?な!」

 (な。と言われてもな。はは・・・・。)
 何故か上機嫌なビクトールという男に、ナッシュは顔を引きつらせた。
 しかし、まだ酔いの回っていないナッシュの思考は冷静にその男を見ていた。
 (確かこの男・・・市長のアナベルと知り合いだったな・・・・。何か話が聞けるかもしれない。) 
 ナッシュは大人しく席へと戻っていったビクトールへ、座ったまま身体だけをそちらへ向かせた。
 「あんたも一人で飲んでるのか?」
 「ん?ああ、いつもは相棒と飲んでんだけどよ。今日はそいつに野暮用ができてな。」

 「―――・・・・・。」
 少し心がズキリと疼く。
 (あの青い男に間違いはないだろうが・・・。まさかな・・・・・・。)
 あのいかにも恋愛沙汰には苦手であろうが、男と同じ部屋で寝るという事はないだろう。
 もしそうだとしても、何かあるということは・・・・ないはずだ。
 「あんたも一人か?」
 ニッと人懐こい笑みをこちらへ向けてきた男は、その身体に似合わないくらいの笑顔をしていた。
 何故だかその表情にほっとしてしまう。

 「ああ。一人だ。・・・・ずっと前から、な。」 
 ナッシュは前へと身体を向きなおし、目の前のグラスを空にした。
 すぐさま女将がそこへと2杯目を注いでくれる。
 食欲をそそるいい香りがしてきた。
 暖かい食事にもうすぐありつける。ナッシュの空腹がさらに進んだ。
 そんな間を置いてから、後ろの男が静かになったのが少し気になった。
 あえて振り向かずにいると、ぼそりとビクトールという男が呟いた。

 「俺も一緒さ。」





 空腹時に入れたアルコールが、回ってきた時だった・・・・・・・・・。







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