カタモイ



























 あの空は何故あんなに澄んでいるのだろう。




























 どこからが空・・・・?

























 そんな不思議な距離は、





 私とあなたを思わせる・・・・・・・・。





















 空へと延びる花々は

 まるで彼へ手を伸ばす自分のようだった。






















 「フリック」

























 思わずその背中に声をかける。

 しかし反応はない。

 (2階からだから聞こえるはずない・・か。)
 は小さなため息を吐き、窓を閉めようとした。
 もちろん、気づかれないよう古びた窓を静かに動かす。

 しかし、その時、求めた青がこちらを向いた。
 「?」

 「っ!」

 「何してるんだ?そんな所で。」

 「あ、うん。えーと・・・・。」

 突然の問いかけにの頭の中は大きな風が吹き荒れる。
 絶対に聞えないと思ったから呼びかけたのだ。
 絶対に聞えないくらいの声で。
 それなのに何故かフリックは自分の存在に気がついた。

 偶然だろうか・・・・・?


 「ビ・・・ビクトールと・・・。」

 「? ビクトールもそこにいるのか?」

 「・・・。うん。」



























 嘘。


 ビクトールなんていない。


 もしかしたら、自分以外の人といるということを気にしてくれるかもしれない。

 そう思って出た嘘だ。


 (そんなの絶対に気にしてくれるはずないのにね。)









 「フリックは訓練?」
 これ以上突っ込まれるとボロが出てしまうため、即座に話の内容を変える。
 自分にしては上出来。と、昔の口下手な自分を思い返しながら。

 「ああ。丁度時間が空いたからな。だけど手合わせする相手がいないんだ。」

 「そうだったの。」

 「、良かったら相手してくれないか?」

 「えっ?」
 突然のフリックからの誘いに心臓が飛び上がる。
 嬉しい。
 嬉しいにきまってる。
 しかしすぐに心配がの心を包み込む。
 (でも・・フリックと訓練だなんて、そんな緊張した状態の私で相手になんかなるかな・・・・。)

 肯定と取れないの表情に、フリックが気づく。
 「あ、と。今はビクトールの相手してるんだろ?誰か暇なやつ探すから大丈夫だ。」
 悪かったな。と言いながら再びこちらへ背を向けた青には焦った。
 向こうへと歩き出そうとするフリックを少しでも引き止めたくて、窓から身体を大きく出した。
 「あ!フリック!だ、大丈夫!用事も今終わったところなのっ。すぐそっちに行くから待ってて!」
 「だけど・・・疲れないか?」
 「ううんっ。私も丁度訓練したいところだったから!」











 嘘に嘘を重ねる。





 恋愛ってこんなものだったかな?





















 本当は好きな人に嘘なんてつきたくない。




 でも好かれたくて嘘をつく。





















 こんな私を好きになってくれるわけないのに・・・・・・・。
























 「お待たせ!」
 勢いよく部屋を飛び出して全力で走ってきたは、訓練前に既に息を切らしていた。
 そんなの様子をみてフリックはくすくすと笑っていた。

 そんな仕草にすら胸が疼いてしまう。


 「よし、じゃあ始めるか。」
 「ええ。」

 (相手は青雷のフリックだもの。少しでも油断すれば・・すぐに負ける。)

 しかし、好きな男の前で冷静に戦えというのはかなり無理な事。


 軽く手合わせ程度にしている時点でかなり押されていた。


 「・・くっ!」
 「どうした。いつもの強気で来い。」
 フリックはまだまだ余裕の表情でを煽る。
 「・・・・っ。のぞむところよ!」

 少しでも気持ちの高ぶりを押さえ、剣技に集中する。

 なんどか剣を交えていくうちに、それに集中できるようになっていった。
 



 しかし、やはり恋愛とは難儀なもので・・・・・・、


























 得にに不意打ちというものには果てしなく女は弱い。



























 「っきゃぁ!」
 「!?」
 の方から攻めに入った時、相手の顔がついてしまいそうなくらい近くで剣を交えた。
 その一瞬で、は目の前にあるフリックの顔に気づき思い切り後退したのだ。
 しかしそれまでは良かったが、勢いよく後ろへ下がったため自分の両足が絡まってしまった。
 そのまま地面へと転ぶ。
























 「・・?」



 はずだった。




















 「大丈夫か?」

 「―――っ!!」


 地面についていたはずの自分の身体は、冷たい地面の代わりにフリックの身体を下にしていた。
 「お前が急に下がるから、支えきれなかったんだぜ?」
 「ご、ごめんなさい!」
 驚きのあまり、身体が動かないためとにかく謝った。

 早くここから退きたいのに、動けない。
 
 でも嬉しい。

 でも退きたい。



 なかなか動こうとしないに、フリックが口を開いた。

 「・・・・。」

 「え・・っ?」



 上から・・・更に間近で見るフリックは、いつもと違う顔をしているように見えた。

 澄んだその青が自分を見つめる。



 「怪我でもしたのか?」


 は思わず何度も瞬きを繰り返した。
 (け、怪我・・・?)
 おそらくフリックは、なかなか動こうとしない
 動こうとしないのではなく、動けないのだと思ったのだろう。



















 「・・・・・・・・うん。」






















 また嘘をついてしまった。




























 でも・・・・・・・・



 嘘、つきたかった。






















 「大丈夫かっ?待て、今医務室に連れてってやる。」
 「ひゃっ・・!?」

 少し期待していた事が現実となる。

 の身体はふわりと浮かび、その逞しい腕に抱かれていた。

 突然浮かんだ身体を支えようと、無意識にフリックにしがみつく。


 自分からして欲しくて期待をして言ってしまった嘘だが、
 すぐに、ある少女の顔が浮かんだ。
 「フリック!こ、こんなところニナちゃんに見られたら・・・――――」
 「そんな事、どうだっていいだろうっ・・・。」
 「そっ・・・・。」
 (そんな事って・・・・。)

 もちろんフリックは、ニナの存在自体をどうでも良いと言った訳ではない。
 それを見られて、騒がれる事がどうでも良い事なのだろう。
 しかし、それがフリックにとってどれだけ苦労する事なのかも十分承知である。
 (なのに・・・、私の心配なんてしてくれるの?)

 すぐ近くにあるフリックの表情は、真剣だった。


 「ごめんね・・・。」

 ――――嘘ついて。


 「いや、怪我をしたのは俺のせいだろう。が気にすることじゃないさ。」






 「ううん。ごめんね・・・・。」

 ――――でも、もう少しだけ。


 「変な奴だな。」

 フリックはそう言いながら優しく笑ってくれた。








 私は少しでもその時間を大切にしたくて、

 胸に刻みたくて・・・・・・・。


 医務室に着くまでずっとあなたに触れる手を離さなかった。






















 太陽の香りがするその胸に顔を埋めて・・・・・・・・。










 彼との距離が縮まったような気がした日だった。












































 ホウアン先生に診て貰っている間も、フリックは傍にいてくれた。
 だけど怪我が嘘だと知られるのが怖くて、私は顔を真っ赤にしてずっと俯いたままでいた。
 





 ホウアン先生は私を診た後・・・・、

 「それでは痛み止めの薬草をお渡ししますね。」

 とにっこり笑って薬草をくれた。




















 医務室を後にし、
 「ホウアン先生には敵わないな。」と、笑いながら私が小さく呟くと、
 「そりゃあ城きっての医者だからな。」と、彼は笑顔でその鈍さを発揮した。




















































 この鈍い青の顔をいつ赤く染めてやろう。








 そんな事を思った日でもあった。