ち雪





























 どうしたら私の心は貴女に届くのだろう・・・・・・・・・・。
























 いっそ抱きしめて、閉じ込めて―――――



 自分だけのものにしてしまおうか・・・・・・・・・。























 そんな事をいつも思いながら、

 どれだけ時が経った――――――?















 「あ、カミューさん。」
 「おはようございます。さん。食事の方はお済みですか?」
 「はい。今食べ終わったところです。」
 「そうですか。それでしたら、少し庭の方にお付き合いしていただいてよろしいでしょうか?」
 「? はい。いいですよ。」
 少し不思議そうな表情をするに、カミューはその笑みを浮かべ、
 彼女を庭へとエスコートした。
 早朝なためか、庭へと続く道はとても静かで人気が少なかった。
 目的の場所に向かう中、カミューが少し小さめな声で喋りだす。
 「貴女に・・見せたい物があるんです。」
 「見せたいものですか?」
 「ええ。」
 「庭なら・・・いつも行ってますけど、何かあったんですか?」
 にとって庭は城のお気に入りの場所のひとつだ。
 そんな場所で見せたいものがあるというカミューに疑問の表情を浮かべた。
 「行けば分かりますよ。」
 カミューが視線を合わせ、また笑顔を向ける。
 大抵の女性ならば、ここで頬を染めるところだ。
 しかし、の場合はそうではない。
 この魅惑の笑みに慣れてしまっているのか、カミューを男として意識をしていないのかは分からないが、
 そんなちょっとした事でが顔色を変えることは無い。

 (もっとはっきり言わないと駄目・・か・・・。)
 先が思いやられる。と、カミューは晴れた空を眺めて気づかれないようため息を吐いた。

 前にも何度かへのアプローチを重ねてきたカミューだったが、
 いつも投げかけるような、軽い言葉ではもちろん彼女は気づくことも無く・・・・・、
 それならばと食事に誘い、瞳を見つめ続けても「私の顔変ですか?」と、聞くものだから
 「あまりにも可愛らしいので見つめてしまいました。」と言ったら――――・・・・・
 彼女は自分の後ろにいるムクムクを指差し、「確かに可愛いですよね!」と、意味不明な同感をしていた・・・。
 それならばと次は酒の場に誘った。
 しかしそれは大きな失敗だったことに後から気づく。
 酒場に行けば、いつもそこにいるビクトール、フリック、その他諸々がこちらへと大注目だった。
 しかしそこで臆するカミューではなかった。
 そんな中でも口説きに入ったのだ。
 二人の間の席に無理やりビクトールが入ってきたが、それにも負けなかった。
 はずだった・・・・。
 は必ずと言っていいほど、酒を口に入れれば酔っ払う。
 それも記憶が無くなる直前までだ。
 そんな中で想いを伝えようが、口づけをしようが・・・・次の日に忘れられていては意味が無い。

 そんな日々を送りながらも、カミューがを想う気持ちは募っていった。
 マイクとの酒の場で、ついその事を喋ってしまった時も、
 「ある意味お前らしいかもな。」
 と真顔で言われてしまった。
 てっきり、「らしくない。」と言われると思っていたが、予想外れの事を言われた。
 「とにかく殿に、はっきり伝えてみたらどうだ?」
 正直マイクにそんな事を言われるとは思っていなかった。
 あのマイクに恋愛の助言をされたのだ・・・・・。
 ショックなようで嬉しかった。


 そして言おうと思った。



 ――――――彼女に。


























 「これですよ。」
 城の庭へと着き、カミューが優しくの背中を押した。

 「わ・・・。」
 その庭は、先日まで咲いていなかった真っ白な薔薇の花が満開に咲き乱れていた。
 は薔薇の開花を誰よりも待ち望んでいたが、来る日も来る日も中々咲かず、待ちくたびれていた。
 そんなを知っていたカミューは、毎朝誰よりも早く起き、
 誰よりも早く庭へ駆けつけその薔薇を見守っていたのだ。
 そして今日の朝、その真っ白な花弁を空へ向けて開いている姿をいち早く見つけたカミューは、
 早くに見せたいと思い、ここへ呼んだのだった。

 ―――――甘い香りが二人を包む。

 「やっと咲いたんですね・・・。」
 はまるで独り言のようにぽつりと呟き、その咲き誇る花々へと近づく。

 純白とも言えるその薔薇に、同じくらい白く細い指では触れる。
 そんな様子をカミューは眩しい白い光を見ているかのように目を細めた。
 そしてふと口を開き、へと語りかける。
 「友待ち雪というのを・・・・ご存知ですか?」
 「え?」
 突然季節はずれな言葉を投げかけられ、疑問の表情を浮かべながらは振り返る。
 「春になっても、夏になっても溶けずにいる雪の事です。」
 「夏になっても・・・・?」
 「ええ。一年中溶けずにまた冬を迎えるのです。」
 何故そんな話をするのだろう。という顔で、はカミューを見つめた。
 カミューはの隣へと寄り添い、一面に咲き誇っているその花へと優しく触れた。
 「まるでこの花が、雪のように見えたもので・・・・・。」
 「花が?」
 また疑問を投げかけたに、カミューは優しく微笑んだ。
 「私の気持ちそのものなのです。」
 「え?」
 は、カミューが何を言おうとしているのかが分からず、ただ黙ってカミューを見つめていた。

 「私のやり切れないこの想いは・・・・・・・貴女に届けば溶けるのです。」

 「・・・っ!!」
 ようやく何を言われているのかに気づいたは、カミューの目から離せないまま顔を赤くした。
 カミューは一歩へと近づき、真下で驚き目を見開いているの手へと触れる。
 その瞬間にびくりと震えるに苦笑しながらも、切ない表情を浮かべ言葉を続けた。
 「いつになったら、溶かして下さるのですか・・・・?」
 「あ・・・・ぇ・・・・・・その・・・・・。」
 「あなたを・・・愛しています。」
 
 その言葉に、またびくりとその肩が揺れた。
 カミューはそのまま握っていた手を自分の唇へと持っていき、の瞳を見つめたままそこへキスをした。
 「愛しています。」
 もう一度その言葉を添えながら・・・・・。

 急に愛の言葉を囁かれ、混乱しているに応えはすぐ求めていなかった。
 そんなことは前から承知していた。
 むしろ、すぐに断られるのではないかという恐怖と、
 これから前のように口を利いてくれなくなるのではないかという不安の方が大きかった。

 「さん・・・。」
 「わ、私・・・・・・・・。」
 カミューの手を振りほどかず、そのままじっとしていたを愛しく思いながらも、カミューはその手を離した。
 「応えは直ぐでなくてもいいですよ。」
 「ぁ・・・・すみません。」
 「ふふ・・謝らないで下さい。まるで断わられたようで少し悲しくなります。」
 「あっ、ごめんなさっ・・・・。」
 は再度謝罪の言葉を発しようとし、慌てて口を手で覆った。
 カミューは微笑みながら、先程のようにその手をとり、
 またその白い手の甲へと口付けをした・・・・・。
 

 そしてすぐにその手を離し、まるで自分を抑えるかのように後ろへと一歩下がる。


 「いつまでも待っています。」



 そんな一言を残してカミューはそこを後にした。




















 真っ赤な顔をした彼女の顔が目に焼き付いていた。
 そんな事を思い出し、カミューも今更ながらに頬を熱くさせる。





















 こんな風に自分が感情を表に出すことなんてずっと無かった。
 ましてや女性の事でなんて・・・・・・・・・。

 カミューはふと後ろへと振り向き、既にいない彼女の面影を想う。



























 自分の心の雪が溶けることは無いのかもしれない。


























 なぜならこの雪は

























 貴女を想う俺の心・・・・・・・。























 一年中消えることの無い

 白い想いだ・・・・・・・・・・・・・。