星降



































 こんな夜は

























 誰を想いますか?






















 「マイクロトフさん。」

 彼を呼んだのはこれで3回目。
 目の前でひたすら剣を振っているその人物は、一向に自分の存在に気づいてくれそうも無い。
 辺りには彼が振るう剣の音が重く響くだけ。

 流石のも痺れを切らした。

 「マイクロトフさんっ。」

 さっきよりも少し強めに呼んでみる。

 (全然気づかない・・・。)
 これだけ呼んでも気づかないその人物は、かなりの集中力があるのだろう。
 (でも、これじゃあ敵にすら気づかなさそう。)
 そしたらやられちゃいますよ?
 と珍しく冗談を口にしてみる。
 もちろん小声で。
 当たり前のように向こうは気づかない。


 別にどうしても今話をしなければならないわけじゃない。
 急な用事があるわけでもない。







 ただ―――――

























 貴方とこの空を見たくて・・・・・・・・。















 そんな少し切ない思いをしながら、
 目の前で夜の訓練に没頭している相手を見つめる。


 (気づかないかな・・・・・。)


 意味も無い念をその広い背中に送る。
 あれだけ呼んでも気づかなかった彼が、これで気づくはずも無いが・・・。


 (こっち向けっ。)












 その瞬間流れるように彼がこちらを向いた。

 (え!?わ、私、声に出してた?)

 あまりにも突然な事だったため、は驚きの表情をしたまま固まってしまった。
 マイクロトフの方も、がいた事に驚いたのか、口を少し開けたままこちらを見つめている。

 「殿・・・。」

 「ぁ、こ、こんばんは・・・。」

 今まで散々呼んでいたのだから、今更挨拶はどうなのだろう?
 なんて変な事が頭に浮かぶ。

 「どうされたのですか?」
 マイクロトフは剣を下ろしたまま、こちらへ近づいてきた。

 近くで見る彼は、とても大きい。
 もちろん身長もあるし、鍛えている分更に大きく感じる。
 しかしそれだけじゃない。
 ――彼のこの性格。
 これが何故か更にマイクロトフの大きさに拍車をかけているような気がしていた。

 背筋を伸ばし、いつも礼儀正しいマイクロトフ。
 もちろんカミューも同じことが言えるのだが、
 同じ言葉を並べてもかなり二人の雰囲気は違う。
 
 は無言で下からマイクロトフを見上げる。
 どちらかと言えば、睨んでいるような目に近い。
 「・・どの・・?」
 もちろんマイクロトフからしたら、何故が何も喋らないのか、
 何故睨んでくるのかは全く検討がつかない。

 どうせ黙っていても、何故が少しばかり拗ねているのかなんて分からないのだろう。
 鼻から少し勢いよくため息を出したが口を開く。 
 「私、何回も呼んだんですよ?」
 「えっ?あ、すっすみません!つい集中してしまうとあまり周りが見えなくなってしまうもので!」
 が不満を一言言っただけで大慌て。
 その様子が少し可愛くすら見えて、は心の中でこっそり笑う。
 「集中しすぎですっ。」
 「す、すみません・・・。」
 マイクロトフは本当に申し訳ないように頭を下げる。
 今度は心の中ではなく、思い切り頬が緩んでしまった。
 しかしマイクロトフは頭を下げたままで気づいていない。
 が、すぐに顔を上げたため、慌てて上がった口をは手で隠した。
 (騎士さんが謝っているのに、笑うなんて失礼だもんね・・。)

 「それで殿。何か御用でしたか?」
 「あ。」
 「?」





 そうだ。





 忘れていた。
























 「上を見てください。」

 「え?」

 「いいから見てください。」

 「上。ですか?」




















 そう言いながらマイクロトフは下にいるに向けていた視線を上へと移動させた。

 「これは・・・・。」

 「すごいでしょう?」


 目の前に広がるのは一面の星空。
 一つ一つの瞬きが、はっきりと見える・・・。
 思わずマイクロトフも顔が綻んだ。





 その時、一つの星が二人の上で流れた。



 「「あ。」」



 同時に口を開いた瞬間、思わずお互いに顔を見合す。
 
 思わず視線を元に戻した途端に、随分と近くにいた事に気づき、
 マイクロトフは顔を真っ赤にした。
 この暗闇でその顔が見えないことを祈りながら。
 は気づいているのかいないのか、
 ただくすくすと笑っているだけだった。

 「あ、あの。これを・・・?」
 「ええ。とっても綺麗だったから、マイクロトフさんに見せたくて。」
 「は、はい!あっ、ありがとうございます!」
 ストレートに自分だけに見せたい。という言葉が嬉しかったのか、
 マイクロトフは一気に声の音量を上げた。

 「一休みしながら、一緒に眺めませんか?」
 が空を指差しながら、目の前で顔を真っ赤にしている人物に問いかける。
 「は!はい!喜んで!」
 「しーっ、マイクロトフさん、声が大きいですよっ。」
 「あ!す、すみません!!」
 「しーっしーっ。」
 
 夜中にも関わらず、マイクロトフは謝罪の言葉を大きな声でこの後も数回続けた。

 はそんなマイクロトフを少し困ったような表情で見るが、
 でもやはり口元は笑っていた・・・。












 マイクロトフがするひとつひとつの大きな動作が、とても純粋なものに思える。

 それはまるでこの星空と同じ・・・。

 無垢な夜空の中で輝く無数の光・・・・・・。













 そんなマイクロトフと一緒にいると、

 自分もその星空の中にいるような気持ちになる。





















 でもそれは、



 どちらかというと、



 ――――――マイクロトフに染められていく・・・・・。



 そんな感じの表現の方が・・・・合っているのかもしれない。




















 草むらに座り、お互いに後ろに手をついて空を眺める。











 「マイクロトフさん、」


















 手、握ってもいいですか?





















 











 二人の星空に



 星が二つ流れた・・・・・。